金田一春彦先生の訃報に寄せて
さる5月19日、国語学者の金田一春彦先生が91歳で逝去されました。
金田一先生の名前を初めて知ったのは、幼稚園の頃、おそらくは3歳上の兄の小学校入学祝いとして家にやってきた『学習ジャンボ国語百科辞典』(三省堂編修所編 ; 監修: 金田一春彦. 三省堂, 1972.9)を通してでした。先生は「監修」なので編纂にどの程度関与されたのかはわかりませんが、確か序文を書かれていたように記憶します。この辞書は小学生向けの割りに文字が多く、それでいて自ら百科辞典を名乗っているように図版も当時としてはふんだんに盛り込まれており、読んで楽しめるものでした。当時筆者は、いわゆる言語発達遅滞のある子どもでありおしゃべりができなかったにも関わらず、ひらがなの読み書きと小学校1、2年生程度の漢字を読むだけはできました。たぶん、この辞書を読むことにより、読める漢字を増やしたはずです。そして発語できないかわりに辞書で覚えた知識に基づき脳内に徐々に語彙を形成していくことができました。おかげで、しゃべることは今でも大の苦手ですが、文章だけは何とか人並みに書けるようになりました。
ある程度成長してからはお父様の金田一京助先生、山田忠雄先生らの『新明解国語辞典』(いわゆる新解さん)や見坊豪紀先生の『ことばのくずかご』シリーズなど遊び心のある「言語もの」にはまってしまい、春彦先生の著作を顧みることはほとんどありませんでした。これからもそうした著書を読むことがあるかはわかりません。しかし、あの『学習ジャンボ』が幼い筆者に「辞書」とは何か、「ことば」とは何かを教えてくれたことは間違いないでしょう。改めて、先生のことばに関する功績に感謝するとともにご冥福をお祈りいたします。
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