誰のためのパクリ
もう3日前の出来事ですが、
飛鳥部さんの小説を回収 類似表現が多数(Yahoo!ニュース)
ご報告(原書房)
の一連のニュースを知りました。
まず、原書房のお詫び報告にある「許可を得ずに一部表記を引用」という表現はいただけません。「一部引用」自体は著作権法の範囲内で許された行為です。筆者は問題の小説を読んでいませんしこれからも読むつもりはありませんが、この問題について取り上げたまとめサイト(飛鳥部勝則氏「誰のための綾織」における、三原順氏「はみだしっ子」との類似点比較)や他のブログを読む限りは「エピソードや表現の盗用」という方が正しいでしょう。お詫び文のような書き方をすると、「パクリ」や「盗用」や「全文引用」だけでない「無断引用」全般が犯罪であると勘違いする人もいるので止めた方が良いと思います。
しかしそのいきどおり以上に畏怖を覚えたのは、盗用した作家氏にも、そしてそれを見つけた読者の心にもどっぷりと染みついていたであろう、三原さんの作品表現の強烈な影響です。確かにあれは一度はまると抜け出すのは容易ではありません。20年近く昔の筆者はそれを経験しました。
高校から大学時代にかけて、一時期マンガの自作に手を染めていた時期があります。絵柄もプロットもついにど素人の域を出ることはありませんでしたが、その頃の絵柄やセリフ回しの端々には小学校高学年~中学生の頃読みふけった『はみだしっ子』の影がちらついていました。
ここでいけなかったのは、同時期に川原泉さんの作品にもはまりこんでいたこと。一時期はシリアス場面では三原的ちょっと大きめお目々、ギャグ場面では川原的点々お目々のキャラクターが、三原・川原作品をまぜこぜにして時にはパクった場面設定で川原風おとぼけ口調で語るというとんでもない状態に陥っていたことがあります。
正直な話、『はみだしっ子』の作中で極限状況において仲間が引き起こした殺人(しかも本人は幻覚状態だったため罪の自覚なし)を1人で背負い込み貫いたグレアムの心情を、大人になった今も十分理解できたわけではありません。しかしながら、未だに考えてしまいます。殺人の遺族がその罪を赦すことが必ず罪人の解放につながるのか?ということや、当初は仲間を守るためだった筈の行動がいつの間にか仲間を置き去りにしているという矛盾の重さなどを。
作者の没後10年を経た今も、『はみだしっ子』だけではない三原作品の濃密な人間描写やハードなストーリー、そして難解なネームにノックアウトされっぱなしの方は多いのではないでしょうか。今回の事件を知って、一層そう思いました。
だからこそ、三原作品がそのように比類なきインパクトを有しているのを理解しているからこそ、今回の作家氏に「盗作」はやらないで欲しかったと強く思います。表現することを生活の糧にしている創作者が偉大な先達の手のひらから抜け出せなかったというのはあまりに悲しいことです。三原さん自身が先人の多様な影響を経て独自の立ち位置を築いた方なだけに余計にそのように感じるのかも知れません。
ちなみに、筆者が所有していた新書判の『はみだしっ子』コミックスは実家に置いてきてしまい、現在消息不明となっています。文庫も出ていることですし、新しいのを買おうかな?とちょっと思ってみたり。(置き場所は考えていません・・・)
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「日々記―へっぽこライブラリアンの日常―」のエントリー「誰のためのパクリ」経由(MIZUKIさま、思い出バトン、ほっぽらかしててすみません……)で、初めて、三原順『はみだしっ子』を盗作した推理(?)小説がある、という騒ぎが起こっていたことを知る。しかも、もう収束しているみたいだし。 いかん。はっきりいって、三原順ファン失格だ。 まとめのサイト「飛鳥部勝則氏「誰のための綾織」における、三原順氏... [続きを読む]
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