図書館員の能力・業績とホームページについて
ACADEMIC RESOURCE GUIDE No.235に、「『これからホームページをつくる研究者のために』(仮題)の刊行に向けて」(第1回)が掲載されていました。ホームページという言葉が世の中に出回り尽くしている割にはこれまで意外と語られなかったと思われる切り口なので、単行本の刊行も含めて今後の展開が楽しみな企画です。
この記事を読んでいて、本筋とは異なる点が心に引っかかりました。研究者がホームページ(個人的にはこの語にやや抵抗がありますがここではあえて使うことにします)を持つことは、その人の研究活動にとって一定の意味をなすと思われます。では、研究者ではない、例えば自分のような図書館員が同じ事をした場合、どんな意味があるのか、ということです。
研究機関には通常、研究を担う立場の者(いわゆる研究者)とそれを主に技術面でサポートする立場の者(実験補助員、作業員など)、そして主に事務や情報収集の面でサポートする者(事務職員、図書館員など)の3種類の立場のメンバーが存在しています。これら3つの立場を、能力の評価という面で比較してみます。
まず、研究者は機関外部との交流や、メディアにおける言論活動など、組織内で多少の許可手続きを必要とする場合もありますが、「仕事の一環」として割と自由に認められていたりします。また、細かな実験や調査を積み重ねる過程は決して楽ではないものの、最終的にそれらのうち優れた成果は学会発表や学術誌への投稿論文として結実していきます。
一方で、サポート担当メンバーがそうした評価を受ける機会は極めて少ないと思われます。例えば筆者の所属先の場合、技術サポート担当者にはまだ技術上の創意工夫業績を評価するためのシステムが存在していますが、事務職員や図書館員にはそうしたシステムがありません。せいぜい勤続○十年表彰ぐらいです。
普通の図書館員が業界誌や図書館情報学関係の研究会・学会誌に執筆したとしても、それがその人の「職場」における能力評価には必ずしもつながらないのではないでしょうか。もしかしたら国立大学図書館協会賞あたりは職場での能力評価に何らかの反映がなされているのかも知れませんが確かなことはわかりません。
前置きが長くなりましたが、では研究者がホームページを持つことの意味は何か?と申しますと、「個人の業績を効果的に世界に伝える」ことがその一つであると考えています。当然ながら、業績公開を通じて国内外の研究者同士がつながりを持つためには実名と所属を明かすことが必須となります。
では、普通の図書館員の全てがホームページで実名や所属を明かして活動できる状況にあるかと言うと、残念ながら必ずしもそうではないのが現状です。特にその図書館員が公務員であった場合、先日経産省で起きた「部長ブログ炎上事件」の例のように大きなリスクを伴います。加えて、「サポートメンバー」の意見が組織を代表するものとして世間に受け取られるのは好ましくないと組織内で捉えられる一面もあります。
また、サポートメンバーが自らの業績を前に出して活動することは、組織の内部の全てに好意的に受け入れられるわけではありません。「研究者でもないのに余計なことを」「事務屋に連なる図書館員が論文を書いて執筆料をもらうなどもってのほか」などの扱いを受ける例もあります。
筆者個人としては、図書館員の研究・執筆活動も「業務の一環」として認められ、能力評価につながるのが本筋であると考えますが、所属組織としては研究者の生み出す研究成果と異なり、それらを100%「組織への貢献」として見なしてはくれないのが現実です。
とは言え、図書館員が研究・執筆活動を行うことは本人に何のメリットをもたらさないというわけでは決してありません。個人のスキルアップにもつながりますし、何よりも自分(たち)の努力で得られた結果を公表することによって図書館界、ひいてはそれ以外の分野に属する誰かの役に立てるかも知れないのです。
ということで、この問題には容易に結論を出すことができません。しかし、矛盾を抱えていたとしても、やはりホームページを含めて図書館員が館界内外と情報を共有し交流することは、今後意味を持つことですらあれ、出る杭として打たれるようなことは決してあってはならない。そういう思いを新たにするのです。
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