第9回図書館総合展 : フォーラム聴講記
先頃11月9日のエントリでも申し上げたとおり、第9回図書館総合展に11月8日午後から9日にかけて参加してきました。
8日にはシステムライブラリアン+大学図書館系ライブラリアンの合同オフ会に出席させていただいたりして、これも非常にとても楽しかったのですが(^_^)、まずは総合展で聴講した2つのフォーラムの感想を書かせていただきます。
11/8 15:30~17:00 第6会場
「インパクトファクターを超えて-研究評価と機関リポジトリ」
前半はトムソンサイエンティフィックの方からのインパクトファクターのお話でした。IF値はあくまで雑誌に対する評価であって、研究者個人や論文に対する評価ではない。また、IF値は他の評価値と複数組み合わせて使われるべきである、という、これまでもトムソンがキャンペーンしてきた内容でした。
後半は、信州大学の機関リポジトリSOAR-IRで論文のメタデータと研究者総覧とを連携させているというお話。メタデータをExcelで提出してもらって、図書館で変換してリポジトリと研究者総覧とをリンクさせているということです。
図書館業務と研究評価業務というのは本来全く別のセクションに属する仕事なわけですが、将来的に図書館がそうした業務にも関わりを持つことが出来るようにする、という図書館の生き残り策としては良い方法だと思います。データを提出することによるメリットが、研究者側に体感として理解できるようにさえなれば協力も得やすいと思うので、そのように流れを持って行ければきっと上手くいくのではないでしょうか。
ただ、前半のトムソンの話が、学術情報に日常的に関わっている図書館員の立場からするとあまりに初歩的な内容だったので、そこはもう少し敷居を高くしても良かったのでは?と食い足りない印象を受けてしまいました。まあ、うちの職場関係で、トムソンの研究評価事業について2回も話を聴くチャンスがあったにも関わらず、都合で聞き逃してしまった自分が悪いのですが。でも、IF値に関する何年もかけて広がってしまった勘違いは何年もかけてじっくり正していくという姿勢は大事だと思うのです。あと、トムソン発行のビブリオメトリックスのテキストも会場でもらえたので良いことにしておきます。
11/9 15:30~17:00 第7会場
「東京大学経済学部図書館所蔵『山一證券株式会社』未公開資料を語る」
1997年、創業100周年にして経営破綻して自主廃業した山一證券。百年史編纂用として収集されていた過去の山一の社内文書について、廃業により散逸の危機を迎えましたが、東京大学経済学部教授の伊藤正直氏からの申し出、交渉により、経済学部図書館に寄贈されました。整理が完了した一部の資料はマイクロフィルム化され、極東書店から発売が開始されています(セット価格\10,500,000!)。
今回、総合展会場の極東書店のブースにそれらの資料のごく一部が展示されていたので見てきました。経済史や金融界に詳しい人が見ればきっと感動の嵐なのだと思いますが、図書館屋としては、
「昭和40年代の資料は青焼きコピーが多いので劣化しやすく保存が大変」
というパネルの記述が一番ツボにはまっていました。そうか、保存しづらいのか、気を付けよう、と。
フォーラムの方は、伊藤先生のご講演でした。講演の半分以上は、山一證券とはどのような企業であり、いかに今回の未公開資料が学術的に重要なものであるか、という内容で、図書館の話は持ち時間の正味3分の1位でした。後日放送予定のテレビ東京「ガイアの夜明け」で山一破綻10周年の話を取り上げるらしく、この講演にカメラ取材が入っていましたが、図書館以外の話題で船をこいでいる自分の姿が映らないかと要らぬ心配をしてみたり(^_^;)。
いや、展示と一緒で「詳しい人」が聴けばきっとありがたい話題だったと思うんですけどね……。何しろ筆者ときたら10年前に経営破綻するずっと以前の1965年にも一度経営危機があって、4年間かけて再生したという歴史的事実すら知らず、伊藤先生のお話で初めて知った体たらく。で、素人としては、
「前にも一度そんなことがあったのに学習しなかったの?」
と思いかけたわけですが、伊藤先生によれば、その過去の破綻の際に大蔵省(当時)に恩を受けた弱みがあったため、山一は大蔵省の方針に忠実であり、それ故にバブル崩壊後に独自方針による経営改善に取り組むことが出来なかった。つまり大蔵省の指導にも問題があったということでした。従って当時話題を呼んだ社長の大泣き会見での「社員は悪くない」発言は、役員というよりも社員の立場から出た本音であったのだろう、という話が面白かったです。何だかんだ言っても、自分が知らない業界の話を聴けたのは有意義でした。
最後の30分程でようやく図書館的な話題に移りました。山一未公開資料は社史編纂室で保管されていた「社史資料〈「60年史」以降〉(概要リスト付き)」「社史資料(概要リスト無し)」「経営企画室保有資料」「その他資料」の4グループに大きく分けられますが、1つ目の社史資料(概要リスト付き)以外は全く未分類、目録も無しの状態だったそうで、その後の作業量を想像するだけで気が遠くなりそうになります。
山一未公開資料の取り扱いは科研費により実施されたそうですが、途中で予算不足に陥り、極東書店との提携開始により(この辺詳しい話はありませんでしたが、マイクロ化製品の販売を前提とした作業人員の提供か?)ようやく第1次分の寄贈資料の整理完了、販売にこぎつけることができたそうです。ちなみに第1次分資料は段ボール約270箱、第2次分は段ボール約500箱で、目録はほぼ完成、帙製本作業中。これは確かに図書館員だけでは荷の重い作業だな、と思いました。
実は山一の資料というのはこれで全部ではないらしく、基本的には山一のOB会が管理しており、OB会および山一の管財人との協議により、それらのほんの一部が東大に寄贈されたということです。それら残りの資料のありかは伊藤先生もご存じないそうで。こちらとしては、例え経済学的には価値が半端な資料だとしても、人知れずどこかに眠っているかと思うとどきどきします(笑)。
最後の質疑応答では、エール大学の方が流暢な日本語で、
「プライバシー情報の取り扱いはどうしているのか?」
と質問されていました。伊藤先生によれば、個人情報に該当するものについてはやはり非公開としているとのことです。その際、アメリカでは歴史的事件の場合、捜索から30年経過後に歴史的資料として公開されるのが原則である、ということを取り上げて、日本では現用文書と歴史的文書の公開原則に区別および基準が無いという事実を問題視されていました。また、現行の法令においては、文書の保存年限の基準は行政省庁毎にそれぞれ定められており、国立公文書館にはそうした権限がありません。国立公文書館法や個人情報保護法等の関係法令が改正され、国立公文書館に文書の保存および公開の権限が委譲されることが望ましいが、各方面の調整を経て定められた法令を改正することは現実には困難である、と嘆かれていました。これも日本の縦割り行政の弊害でしょうか。
前にも書いたとおり、図書館濃度はやや薄めの内容でしたが、基本的には普段縁の薄い世界の話を聞けて楽しかったです。本音を言えば、書店さん……のお話はその気になれば会場ブースで伺えば良かったとして、図書館の人のお話をもう少しお伺いできると嬉しかったです。もしかして資料受入に当たって先生が頑張りすぎて、図書館現場ではぶーぶー言ってるパターンなのかな?とかつい穿った見方をしてしまうのですが。
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