意外な大先輩
雑誌『東京人』no.250(2008年2月号)を、特集の地下鉄記事目当てに買って読んでいたところ、新作映画『母べえ』の原作者ということで、野上照代さんのインタビューが掲載されていました。
学生時代の一時期黒澤明監督の映画に嵌り、ちょうどその頃ようやくリリースされ始めたビデオを片っ端からレンタルして観まくっていた頃がありましたが、黒澤監督に関する本を読むと必ず「スクリプター(記録係)の野上さん」に関する記述が出てきていました。どういうわけか黒澤映画に「男の世界」というイメージを勝手に抱いていたので、重要なスタッフとして野上さんという女性が存在していたという事実を新鮮に思ったのを覚えています。
さて、そんなことを思い出しながらこの野上さんのインタビューに目を通していて、
「……父の勧めで私は上野の図書館学校に入りました。そこは月謝がなかったから。男女共学で二十人ぐらいの生徒がいたかなあ。割合、自由な雰囲気で先生もすばらしい方ばかりでした。……その学校にいたのは一年ぐらい。昭和十九年です。……」(2月号p143より部分引用)
というくだりを発見して驚きました。
こちらで手持ちの卒業生名簿に当たってみたところ、確かに野上さんは昭和19年度に文部省図書館講習所を修了されていることが分かりました。インタビューによれば戦時中疎開のような形で山口県の学校の図書館に一時勤められた後、雑誌記者を経て映画界に入られたそうです。
図書館講習所に入所されたのは、ドイツ文学者で唯物論研究者であったお父上の投獄による経済的な事情が影響しているようですが、当時の図書館が知識階級の職業として位置づけられていたというのも大きいのではないでしょうか。
そして、恐らくは戦時下から敗戦後間もなくの疲弊した図書館界よりも、マスコミ、ひいては黒澤監督に代表される新しい才能を得た映画界の方が遥かに魅力的であったに違いないと推測しています。
しかし、意外な所に意外な大先輩がいるものです。だから何だと言われればそれまでですし、結果として図書館界には進まなかった方ではありますけど、ちょっとでも縁があるような気がすると何だか嬉しいのは確かです。
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