久世番子『番線』
少し前に購入した、久世番子さんの『番線』をようやく読了しました。番線というのは書店で発注等に使われる「書店の識別コード」の業界用語だそうで、元書店員番子さんらしいネーミングです。「元」と書いたのは、これを書く前にWikipediaで番子さんの項目に当たった所、既に書店員は辞められているという記述があったからです。少し残念ではあるけれど、本業に専念できるのは幸せなことであるとも思います。
表紙を開いた瞬間、口絵イラストの布団に横たわる番子さんの図のインパクトが強烈でした。きちんと書棚があることを除けば、自分の寝室にそっくりだったからです。読みかけの雑誌、漫画、文庫本、演劇パンフ:-)やらを枕元に貯めこみ、しかもそれらをなかなか片づけられず、ドレッサーの椅子の上にまで積み上がっていっている体たらくなので、家族から「営巣」と呼ばれています。多分、番子さんは「本好き」だけでなく「読書家」でもあると思うのですが、「読書家」にコンプレックスを抱いている人間としては彼女の「本好き」ぶりの方に共感しております。
一応図書館屋としては、国立国会図書館の前後編ルポを丁寧に読みました。積層書架や火災発生時の消火方法に関する説明を、蔵書保護至上主義という切り口で描いているのが面白いと思いました。確かうちの職場のコンピュータセンターもガス消火だったよな、と思い起こしてみたり。
あと、蔵書のカバーの脱衣についても触れられてましたが、カバーに奥付が付いている場合は切り抜いて本体に貼り付けるというのは初めて知りました。そう言えば前の職場(うちの職場系列の図書館は大体カバー脱衣後装備方式です)でも同じことをしていたなあ、確か。あ、「爆弾に注意」プレートも笑わしてもらいました(書庫内で出庫にかかる時間を知らせるプレートだそうです)。
同じ国立国会図書館の修復部門のルポも、自分には縁の薄い分野なので興味深かったです。古文書を「原型を壊さず直すことはもちろん必要があれば元に戻せる方法で補修しています!」に深く頷いたりして。
この作品における図書館以外にマイツボに入ったキーワード、キーフレーズは、
「もしも私が家を建てたなら(略)壁全面の本棚ぁぁぁ~」
「手動写植機」
「教科書やおい」
「近年のツンデレブームは…文部省の陰謀!!」
「トリックの穴 見つけちゃいました」
「一箱古本市」
あたりでしょうか。
余談ですが東京創元社の校正課のエピソードである「トリックの穴」の件。仕事関係で学術論文の校正ならやったことがありますけど、その時は用語の統一ぐらいまでなら気づけたものの、流石に実験過程の穴を見つけるレベルには至れなかったです。まあ、それをチェックするために学術論文には査読者というのがいるわけでして。でも見つけられない時は数人がかりでも重大な間違いを見つけられないことというのは本当にあるので、恐ろしいことです。
『番線』は漫画ですが、本好きさんは結構楽しくいちいち納得しながら読める本かと思います。お勧めです。
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