『草子ブックガイド』1巻のブックガイド……のなり損ないみたいなもの
草子ブックガイド. 1 / 玉川重機 著. -- 東京 : 講談社, 2011.9.(講談社の公式サイト)
二昔前の子供を持つ親の常套句に「またこの子は本ばかり読んで閉じこもって!もっと外で遊びなさい!」というのがありましたが、この本に登場する草子ちゃんは、まさにその常套句が当てはまる中学生です。
物語の最初では閉塞した現実の世界での居場所を失い、専ら本の世界という空想に翼をはためかせていた草子ちゃんが、古書店青永遠屋(おとわや)との出会いを1つのきっかけとして、「ロビンソン漂流記」「ダイヤのギター」「山月記」「名人伝」「山家集」と古典を中心に読み解いて手作りのブックガイドを綴りながら、徐々に世界と繋がり、かつ人と人、あるいは人と本とを繋げていくという展開が魅力的です。
お勧めのエピソードは、本当はライブラリアンとしては「2冊目」(この漫画においては章番号が「2冊目 その1」等で示されます)の「ブックトーク」のエピソードと言うのが筋なのかも知れません。もちろんこのエピソードも、本や学校図書室という場を媒介にした、人同士の素朴な繋がりの誕生をテーマにしていて含蓄が深かったのですが、自分としては「3冊目」の「蔵書票」のエピソードを一押しします。
余談ながら、学術情報データベースやシステムを扱うベンダーに「Ex Libris」社というのがありますが、この作品から「Ex Libris」が「蔵書票」という意味であると今更知った自分……。穴を掘って入りたい気分でした。
このお話で、草子ちゃんが中島敦の「山月記」「名人伝」を媒介に、両親のエゴや弱さを若いなりに冷静に読み解き、諦観のもとに「自分を愛する親」ではなく自分と同じ1人の人間として理解しようとする姿は何とも健気です。
彼女の母親は、はからずも娘に冷徹な現実を突き付けてしまった後で、娘のそんな心を知り、今度は自身のエゴが娘や前夫にもたらしたものを突き付け返され、この本(山月記)を持つ資格は自分にはない、と嘆きます。そんな母親に対し、青永遠屋店主の青斗さんは「…もう一度…その本(山月記)を読んでみては?」と言葉を掛けるのです。まだ遅くはない、「本はあなたの人生のそばに……いつだっている」と。そして作者も、苦い幕切れでありながら、草子ちゃんと読者の心にひとかけらの希望を残してくれています。物語のキーである蔵書票がどのように使われているかは、読んでからのお楽しみ、です。
「4冊目」も、草子ちゃんの西行の歌の世界を媒介とした外の世界との繋がりが身近な人の内的変化をももたらすという多重構造のお話で、二重三重の面白さがあります。「1冊目」は全ての物語の始まりなので、どういうお話かはあえて記しません。
漫画なのに絵柄について語っていませんでした。銅版画を彷彿とさせる緻密な、それでいてメリハリのある描線が印象に残る絵です。もしかしたらこういう質感の絵柄に馴染めない人もいるかも知れませんが、私は好きです。
公式サイトを見ると月刊連載ではなく連作シリーズのようで、絵柄的にも多作は難しそうですが、続刊が待たれるところです。