科研費研究成果報告書に関する産経の記事について
昨日産経新聞に載ったこちらの記事。
国費で作った研究報告書なのに読めない、コピーできない…年間2000億円の科研費 (1/2ページ) - MSN産経ニュース
例え主張自体が正しいとしても、論旨展開を誤ると軽く見られてしまう記事の分かりやすい例です。
推測するに、記者さんが最も言いたいのは、
「科研費研究成果報告書について、折角国立国会図書館(NDL)に納本されているのに、著作権法に照らして全文複写が認められない。国の予算を費やしているのだから、電子媒体で提出されていない過去の報告書についても、著作権問題をクリアした上で是非遡及電子化・インターネット公開を進めてもらいたい」
ということだと思うのですが、
「文科省担当者だって忸怩たる思いでいるのに、著作権法を盾に全文複写を認めないNDLの唐変木め」
としか読めない文章になっている辺りがかなりダメだと思います(笑)。せっかく良いことを言おうとしているのにもったいない。「内容はおっしゃってる通り」とか言ってこういう文章を許しちゃいけない(そこまで言うか)。
というわけで、科研費研究成果報告書について少しだけ思う所を語ります。
もう何年も前にNDL関西館で受けた「科学技術情報研修」で教わったJIS規格資料の探し方等は綺麗に忘れたのに、科研費研究成果報告書が必ずNDLに納本されていること、でも装幀や印刷費のかけ方は、科研費を受けている人が報告書に費用をどれだけ回すかによりまちまちであること、という話だけは妙に覚えております。そして講義のサンプルとして示された報告書がいかにもお手製で、「これで永年保存?」と思ったことも。
しがない一司書にして一事務屋である自分は、科研費を受け取るような立場になったことはないのですが、研究の推進に当たって競争的資金の獲得が重んじられる昨今、科研費は文科省に頑張って(研究者本人も事務方(その事務方もまた研究職である場合も多い)も頑張って)要求してゲットする貴重な資金。そりゃ普通に報告書の作成費をできるだけ切り詰めて、少しでも実際の研究を進めるのに使いたい筈です。
研究成果報告書の作成費を自分が受けた科研費から捻出するという考え方は決して間違っている訳ではありませんが、その考え方により、印刷部数が切り詰められた結果、国立国会図書館には必ず納本されるのに、研究者自身の所属機関図書館まで部数が回らないという問題も生じるんじゃないかと思います。
また、同じく費用の都合で報告書の装幀が、価格が安い、というか普通の論文製本と同じような手作り感満載で仕上がる→それって永年保存に耐えられる?という疑問もあったりしますが。いや、こんな印刷受注もあったりするので、本当に手作りしているわけじゃないでしょうけれど。
自分としては、個々の研究の科研費から研究成果報告書作成費を捻出するんじゃなくて、一定部数までの作成費を別枠で出してくれれば良いのでは?と考えています。一定部数を超える場合は超えた分だけ個々の科研費から支出する、とか。
その上で、遡及電子化も何とかして欲しいと思います。もちろん電子化費用を科研費からピンハネするなどではなく、文科省の予算で。
実現するには著作権の許諾手続きとか、何よりも鬼のように厳しい財務省をクリアした上予算を確保しなければならないとか色々あると推測されます。それに利用者は、本当に欲しい時は「研究者本人に直接コンタクトする」という手を使うでしょう。
それでも遡及して電子化を行い、できればインターネット公開も行うことで、原文が参照しやすくなり、少しでも研究活動の進行がスムーズになるというのは決して悪い話ではないと考えます。できれば著者最終稿で別冊論文なんかも載せてくれるとありがたいと思うのですけれど。無理なら電子ジャーナルのDOIを示すとか。
せめて、こういう出版社の利益等への配慮を要する部分の少ない学術情報については、広く活用されてなんぼ、の姿勢で公開を進めてもらいたいです。まあ、所詮は自分が文科省の人間ではない故に気楽に言えるのですが(^_^;)。