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カテゴリー「文化・芸術」の記事

2010.04.18

井上ひさしさんの死に寄せて

 4月9日に井上ひさしさんが亡くなられたことが、11日の各新聞の報道で発表されました(スポニチの記事

 以前もこちらに書いたことがあったように思いますが、井上作品には特に大学生の頃、その豊かすぎる日本語表現と、放送作家、小説、エッセイ、戯曲という八面六臂の活躍の素敵ぶりにどっぷりとはまりました。どれだけはまっていたかと申しますと、岩波ブックレットで出ていた『井上ひさしのコメ講座』を読みふけるぐらいには影響を受けていたと思います。はまりすぎて卒業研究で書誌編纂に取り組んでしまったぐらいです。
 その卒業研究は、当時愛用していたワープロ「文豪」(CRTモニタ!)で記述し、2DDのFDに保存していました。そのうちPCのファイルに移し替えねば、と思いつつ時が流れ、今ではFD自体がどこに行ったか分かりません。
 ちなみに、せっかくまとまった論文を書く機会であった筈の卒業研究を、書誌という作品提出で済ませてしまったため、未だに「論文、あるいは総説であっても学術的文章を書ける人」に対し劣等感を抱いているわけですが、それについては今回は触れません。

 井上さんに話を戻しますと、ここ10年ぐらいは、学生時代程には活動を追いかけなくなっていましたし、卒業研究をアップデートすることも全くしていませんでした。戯曲の上演は『シャンハイ・ムーン』の初演を吉祥寺の前進座劇場で観たのと、2年前にチェーホフを題材にした『ロマンス』を観に行った程度です。それでも発表される新作の評価などにはゆるやかにアンテナを張り続けている作家の一人でした。
 ご本人を拝見した最初で最後の機会は、2007年の全国図書館大会での講演会でした。分科会などに一切興味はなく、本当にこれを聴くためだけに大会に参加した非道な会員です(だから出張ではなく年休を取っての参加でした)。その時の模様は、こちらのブログでもレポートしています(記事リンク)。ご自身と図書館との関わりや、「遅筆堂文庫」の設立エピソード等について語られていました。

 ところで、亡くなった直後に、「井上ひさし」でググった結果を見てみた所、賞賛と非難、両極端の評価が目に飛び込んできました。テレビ脚本・小説・エッセイ・戯曲と多岐のジャンルにわたる名作の数々。憲法改正反対論に代表される極左思想。元の奥様からのDV被害告発、等々。
 晩年に発表された戯曲の、穏やかで達観した老練のストーリーテリングの中に鋭い視点を秘めた作風も良いですが、一方で、初期のどぎついエログロに彩られたどす黒い作風にも捨てがたい物があります。かなり好き嫌いを選ぶ内容ではありますが、あれは人間というものに希望を抱きつつ、真っ黒な絶望がお腹の中で暴れ回っていたからこそ書けたものではないでしょうか。人間の希望というのは絶望に裏打ちされているということを身をもって体現した作家であったと思います。

 とりあえず、訃報を聞いてから10日近く経って、やっとここまで井上さんについて書けるようになりました。昨年ガン闘病中であることが公表されてから、70代半ばというお歳も踏まえ、ある程度覚悟は決めていたものの、思いの外自分の受けたショックは大きかったようです。
 前記のように、作品と無関係な部分でネガティブな評価も多い方であり、それはまあ仕方ない面もあるとして、個人的には、あれほど博覧強記で、ストーリーテラーで、かつ耳も目も良い(ミュージカルでも純粋なストプレでもない「音楽劇」の作り手でした)作家はそう多くはありませんし、これからも滅多には出ないと信じています。

 なお、当分、この方の名前でネットをググることはないと思います。
 ご本人は全部承知の上で堂々と自分を全うして生涯を終えられたと想像しますが、1人のフォロワーとしては、まだネガティブな悪意に満ちた言葉に耐えられそうにありませんので。 それが怖くて、自分が訃報をブクマしたはてブのコメントページすら見られない状態が続いております。実はTwitterのタイムラインに現れる、リアルでの友人・知人以外の関連コメントもスルーしておりました。お願い、そんな批判ブログのURLなんて張らないでー!などと。
 これが自身に対する批判であればもっと耐えられるのに。自身が汚され傷つけられるよりもっと辛い気持ちになるのは一体何故でしょう。

 学生時代に集めた井上作品のほとんどは、実家に置いてきてしまいました。これから、それ以降に発表された作品を少しずつ読んで、空白を埋め、そしてできれば上に述べた「気持ち」の意味を自らに問うていければ。そう考えています。

2008.04.27

にゃーにゃー村の展覧会

 ひたちなか市のコーヒーショップコマクサまで「ねこてん10にゃーにゃー村の展覧会」を観に行ってきました。
 連れ合いが社員旅行で出向いた横浜中華街の猫グッズ屋さんで購ってきた、子猫達が木造の小学校の前で早朝ラジオ体操に励むイラスト(しかも1、2匹、振りのずれてる子がいたりする(笑))を描いた1枚の絵はがきが、にゃーにゃー村との最初の出会いでした。作者さんのお名前と「にゃーにゃー村」で検索すると、ちょっとレトロな日本の農村の風景の中で大人猫も子供猫も生き生きと暮らす風景を描いたイラストと、オリジナル猫グッズが満載のサイトがヒットしました(→にゃーにゃー村のサイトへ)。
 以来、猫飼いではないけど猫をウォッチするのが好きな者として、このサイトには癒されております。そろそろ村民になる手続きに着手しようかと思っていた矢先、上記のコマクサさんで4月17日から29日まで展覧会が開催されるという案内がサイトに掲載されました。これは同じ県内に住む以上は行かずにはいられまい、と、本日午後連れ合いの運転する車で1時間弱かけてコマクサまで走って行きました。下の写真はお店入り口の看板です。
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 コマクサは今年で開店30周年を迎えるという、年輩のマスターご夫婦が経営されている昔ながらのほっと一息付ける雰囲気の喫茶店で、常連らしき方もちらほら見受けられました。コーヒーもケーキもなかなか美味、と思いつつ、店内の壁に吊り下げられたにゃーにゃー村のイラストや、猫の和風人形をじっと眺めていると、少し後に隣の席に座られたご夫婦が絵のことを話題にされました。あー、やっぱりファンなのね(^_^)、と微笑ましく聞いていた所、更に1つ隣のテーブルの女性が何と、「この絵は実は私が……」とにこやかに語りかけられるではありませんか。何と作者さんが!と、もう舞い上がりまくりに。

 隣の方が話されるのを横で伺っていた所によると、あのイラストの画材は普通の不透明水彩だそうです。確かにあの猫さん達や建物のみっちりしつつ柔らかい質感は、透明水彩やアクリルでは出せないなあ、と納得。
 また、にゃーにゃー村の生活風景は、茨城県内や千葉県に今も普通に残っている懐かし建物や風景を素材にされているとか。つくばの住人としては、自分の身近に残る農村の風景というのは、旧市街の中で浮き上がって開発されている学園都市部とのギャップの象徴として捉えてしまいがちだったのですが、実の所とても貴重なもので、一種の宝物なのでは?ということに気づかされました。にゃーにゃー村は遠くにあると思っていたけど、本当はすぐ近くにあったのか、と。もっと農村の良い所を見直してみようかな、と思います。

 ひとしきりにゃーにゃー村の世界に浸った後、作者さんに「つくばから来て良かった」云々とつたないお礼を言って、絵はがき、根付、お人形等々のグッズを手にお店を後にしました。
 今回、いつものにゃーにゃー村のイラストの他、今回展示しきれなかったもの、ということで、映画パロディのイラストもコマクサのマスターの奥さまに見せていただきました。SFテイストの猫さん達もかなり新鮮で格好良かったです。このお店でのにゃーにゃー村展覧会は今回で8度目だとか。来年も開催されるのでしょうか。また行けたらぜひ行きたいです。

 下の写真はお店から連れて帰ってきた猫のカップルです。今は、散らかしていた玄関の靴箱の上にどうにかスペースを作り、そこにちょこんと座っています。何とも微笑ましい2匹です。
Dscf0011s

2007.01.06

著作権保護期間延長反対署名

 青空文庫で、このような呼びかけが始められました。

 著作権保護期間の延長を行わないよう求める請願署名

 保護期間を現在の「死後50年」からあえて延長することによる文化的メリットがどうしても見出せないので、基本的に延長には賛成したくありません。
 また、請願趣旨文にある「個人の創造力は、生物的な死によって失われることを踏まえれば、死後の保護期間をこれ以上延ばしたとしても、創作に、より手厚い支援を与えられるかは疑問です。」の一文にも共感します。
 というわけで、このブログのメニュー内にも、延長反対ロゴと請願署名のページへのリンクを張っておきました。請願署名のページでは、親切なことに署名用紙だけでなく青空文庫への発送用封筒の様式までPDFで提供されており、ちょっと署名でもやってみようか、という気にさせてくれます。よろしければご覧になってみて下さい。

2006.10.29

創作者のプライドと著作権

 かなり今更ですが、ここ2週間ほどの間に出てきた、松本零士vs槇原敬之(マッキー)問題とかテルーの唄盗作(?)問題とかについて思ったこと。
 どうも追及している側もしくはマスコミの皆さんが、著作権法上の権利と創作者としてのプライドの問題をごっちゃにしてるような気がして仕方がありません。

 まず、松本先生の主張(MSN毎日インタラクティブ10月19日記事より)には、何よりも先に創作者のプライド故の傲慢さを感じ取ってしまいました。筆者自身は999のコアな読者・視聴者ではないのであのフレーズは存じませんし、ましてやマッキーが本当に知らなかったのかなどは分かりません。ただ、あのフレーズには無意識に身体に染みこんで来るパワーはあるんだろうな、と思います。とはいえ、松本先生の付けてきた因縁苦情は、その創作者の身体に染みこんだ(かも知れない)ものについて今更「返してくれ」と言っているようなものなので、ちょっと解せません。
 この松本vsマッキーの件については、その後大人の和解が進みつつあるようです。松本作品もマッキーの曲も大好きな人間として今回の争いは辛かったので、少し胸をなで下ろしております。
 また、友人達とのやりとりの中で、松本先生が以前に某プロデューサー氏のせいで『宇宙戦艦ヤマト』の著作権問題で相当に苦しめられたということも思い出しました(参考:当時(2003年)の東北新社のニュースリリース)。そう言えば某プロデューサー氏もマッキーも過去に同じ罪状で…ということで、一概に松本先生の大人げなさを責めることはできないなあ、と今では思っております。

 もう一点のテルーの唄について。最初に見た記事はこちら。
 ゲド戦記:挿入歌の歌詞が朔太郎の詩と酷似-今日の話題:MSN毎日インタラクティブ
 詩人の荒川洋治さんという方が、月刊『諸君!』の2006年11月号で指摘されたらしいです。原典は未見なのですが、記事の文面から察するに荒川さんが本当に主張したいのは、
「先人の名作にインスパイアされて作るなら作るで、もっと創作者としてひねりのあるものは作れなかったのか?」
ということなんではないかと思いました。そもそも朔太郎の作品は既にパブリック・ドメインになっているのだから、素材として使われること自体には著作権法上の制限はない筈。ですが、もう少し作品としてひねりを効かせるとか、拡がりを出すとか、何とかならなかったの?あなたには創作者としてのプライドはないの?大ジブリの作品なら何をやっても許されるの?と言う嘆かわしい気持ちの発露の結果が今回の荒川さんの記事なのであれば、大変良く理解できます。
 だから、今回のテルーの唄問題について「著作権問題に詳しい日本文芸家協会副理事長、三田誠広さん」にコメントされると非常に腹立たしかったりします。何故あなたがこの問題を語る?みたいな。それはもしかしたら筆者の三田さんに対する個人的感情かも知れませんが(笑)。コメント中では「盗作とは言い難い」「モラルの問題として、朔太郎への感謝の言葉を入れるべきだ」「先行する芸術への尊敬の気持ちが欠けている」という正論を一応吐かれていらっしゃいますので。
 ――で、その後この問題に関してジブリ側が出したコメントがこちら。
 スタジオジブリ - STUDIO GHIBLI - 「テルーの唄」の歌詞の表記の問題について
これまでの事務面・広報面での対応に特に問題があったわけではなさそうですが、何だか創作者の尻ぬぐい的印象が否めないのはどうしたものかと思います。

2006.08.16

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』観劇記(8/14マチネ)

 キャスト:クロロック伯爵=山口祐一郎、アブロンシウス教授=市村正親、アルフレート=泉見洋平、サラ=大塚ちひろ、ヘルベルト=吉野圭吾、クコール=駒田一

 この日は友人3名との観劇でした。うち2名、NさんとSさんは素敵な浴衣姿。もう1名の土曜日もご一緒したAさんは遠方からの3泊4日ハードスケジュール上京の疲れを押しての参加。華やいだ気分だったためか、以前は特段はまることもなかったクロロック伯爵の細かなエピソードが、本日は妙にツボに。キャストが前回の観劇と全く一緒で驚きが少なかったというのも原因のひとつかと思います。

 城を訪れた人間どもに息子のヘルベルトを紹介する時、猫を撫でるがごとく愛おしげにほっぺたを触る触る。モンスターとは言え、こんな妖しい父子がいていいのか?と、1人で爆笑。
 さらにアルフレートにスポンジを渡す時、あんな老いぼれ教授など捨て置いて自分を解放せよ、と誘いかけながらまたほっぺたをぺたぺた触ります。そんなに若い男の子のエネルギーが恋しいか!?と突っ込みMAX。また、伯爵のスポンジを使った一連の演技が実はとんでもない下ネタだということを他の観劇ブログで見知って観察していたところ、本当にそうだったということが判明。あまりに上品でさりげなさすぎて気づかず、はうぅ、と1人赤面。
 そして、メインの獲物はサラだというのに、どういうわけか「アルフレートは私のものだ」と教授に宣言する伯爵。ヴァンパイアの本能に根ざす欲望に苦悩しながら、でも舞踏会ではしっかりサラを吸血する。何て欲張りなんだろう、この初老のヴァンパイアは!

 ……というわけで、伯爵が出番は少ない癖に噛めば噛むほど実に味のある、人間の獣性と理性の双方を体現したキャラクターだということに、観劇4回目にしてようやく目覚めつつあります。実際に物語を回していくのはヘタレアルフレートと、回を重ねるごとに身なりのぼろさ加減が増していく教授の2人ではあるのだけど、やっぱりこのお話の主人公は伯爵なのだと改めて納得した次第。

 Aさんとは電車の時間の都合でカーテンコールもそこそこにお別れしなくてはなりませんでしたが、残った2名とお茶に向かう道すがらで伯爵番外編その1。その日の朝起きた首都圏停電騒ぎの原因が、何故か友人の一言で「実は伯爵のクレーンが送電線を(笑)」という話に。いや、「クレーン船」が原因の大変な事故だったのは重々承知しているのですが、あのロングトーンで伯爵が声を響かせながら電線をぶった切っている様を想像して笑いを抑えるのが苦しかったです。
 番外編その2。銀座でお茶した後、山野楽器でミュージカルCD等を物色している最中、Nさんが、
「そう言えばここ5、6日、伯爵の御髪がずーっとほつれっぱなしで気になって気になって」
と発言。実は筆者も「何アホ毛立ててるんじゃ」と髪の乱れは気になっておりました。劇場入りの際、時々朝起きたままっぽい髪型でお出ましになるという話は見聞きしたことがありましたが、よもやカツラでもやって下さるとは。……さて、翌日の公演ではちゃんととかしたのでしょうか?

2006.08.06

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』観劇記(8/5マチネ)

 キャスト:クロロック伯爵=山口祐一郎、アブロンシウス教授=市村正親、アルフレート=泉見洋平、サラ=大塚ちひろ、ヘルベルト=吉野圭吾、クコール=駒田一

 8月初、トータル3回目のダンス・オブ・ヴァンパイア(TdV)観劇に出向いてきました。同行の友人は夏らしく浴衣での観劇。服装は考えた末、手持ちのプリーツプリーズのベージュのシャツに別のスーツのベージュのパンツ、シースルーの白い八分袖シャツのセットといたしました。我ながらあまり突っ込みどころのない服装で、少し心残り。

 今回も、全体的に大きなハプニングもなく、実に楽しい舞台でした。2ヶ月公演も後半戦となり、キャストの皆様に良い意味での余裕が出てきたように見えます。

 今回は、ようやく伯爵の客席登場通路に近い席(1FJ列センター)に座ることができました。噂通りの気配を消した静ーかな足運びで雲を突くように大きい、黒マントをまとった伯爵(ベタな比喩だ…)が通り過ぎる瞬間、何故か自分も息を殺して見守ってしまいました。
 山口さん、本日の歌声も絶好調、バズーカロングトーンも見事でした。ただ、今さらなんですが、何故この方は歌う時両手を胸の当たりに構えて、前に出したり横に広げたりして動かしてしまうんでしょう?きっと一番声を出しやすいポーズなんだろうとは思いますが、今まで見てきた演目(4つくらいしかありませんが)で、歌い上げるナンバーの時は割とこのポーズを取られていることが多いです。あんなに手を振り回して風呂場で迫ってたら、サラが惹かれるどころか退いちゃうぞ?と思わないでもありません。でも顔と声と立ち姿が美しくて、舞台も客席の隅々までも我が手の内にあり!というような立ち居振る舞いを見せてくれます。「抑えがたい欲望」他のナンバーでは、歌声ひとつで観客をヴァンパイアの哀愁に包み込んでくれます。だから好きです。

 教授も絶好調でした(笑)。早口ことばの流暢さはただ口を開けて見守るばかりです。どのシーンでも軽やかで弾むような所作に、教授という奇天烈で愛すべきキャラクターが余すことなく表現されていて、ひたすら上手いなあ~、という感じ。

 そして本日のアルフレートは泉見君。浦井アルフが、箱入りで育ったけど、変わり者と評判の父上の酔狂で教授に身元を預けられてしまった、格の高い貴族の三男坊だとしたら、泉見アルフは家の商売が傾きかけて兄さんがお店を支えている中、苦学して大学に入ったら何故か教授につかまっちゃった商人の次男坊だと勝手に妄想しております。どっちも長男ではないところがポイントです。
 浦井アルフは母鳥の翼の下を離れたばかりの弱々しい雛鳥が初めて美少女を見て刷り込みされて目覚めた感情のもと、教授に叱られそして伯爵に煽られて突っ走る感じ。こっちはこっちで好きなんですが、泉見アルフは、今までも数々挫折してきたけど、この一世一代の恋だけは!と、弱い自分と戦う純粋な男の子ぶりが見ていて気持ち良いです。実年齢ではたぶん浦井君より十歳ぐらい上なのに、全く違和感がないのは凄いと思いました。

 アルフの悪夢シーンのダンスはだいぶ直視できるようになりました。加賀谷さんのしなやかな振りが割と好きです。このシーンの他にも、サラの家出ダンスや墓場のヴァンパイアダンスなど、7月の最初の頃に比べると随分アンサンブルの動きが自然になってきたように思います。

 ヘルベルト入浴シーンは、カーテンが開いたらいきなり片肌脱ぎしていました(^^;)。同行の友人(吉野さんファン)によれば「泉見君、素で驚いているように見えた」そうですが、観客にも衝撃的な場面でした。

 カテコは8月に変わるらしい、という話でしたが、どこが変わったのか素人目にはよく分かりませんでした。自分にわかるのは、伯爵が舞台の中央に立ってにっこりとスタンディングを煽ると脊髄反射でスタンドアップしてしまうということだけです(^^;)。

 ――さて、本日の私的ハイライトは幕間恒例のクコールお掃除にありましたので、これをもってしめくくりといたします。最近どんどん1幕最後の伯爵への頭突き&すりすりがエスカレートして、可愛い度が急上昇しているクコール。休日なので伴奏無しのお掃除。時々息をついて伸びをしながら紙吹雪をハタハタするクコール。そこに「彼はどこー?」とクコールに語りかける野太い声が。上手から現れたのは、真っ黒な日傘にサングラスをかけ、トランク(たぶんアルフの)を持ったヘルベルト!服装は1幕登場時のスーツでした。も、もしかして、昼下がりなどの日が陰ってくる時間になったら、あの格好でお外をうろついてるんですか?ヘル。彼は「アルフレートー!」という呼び声を上げながら下手に捌けていき、クコールも首をかしげながら退場して行きました。意外な共演が見られて何よりでした。

2006.07.20

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』観劇記(7/17ソワレ)

 キャスト:クロロック伯爵=山口祐一郎、アブロンシウス教授=市村正親、アルフレート=浦井健治、サラ=大塚ちひろ、ヘルベルト=吉野圭吾、クコール=駒田一

 2回目のTdVは実母を連れての観劇でした。座席は1FV列(A席)。通常の演目ならただの「舞台からちょっと遠い席」ですが、TdVに限っては1Fの通路をぐるぐると駆けめぐる教授やアルフレート、ヴァンパイア達の動きを見渡して観察できる楽しい席でした。
 伯爵のコウモリ羽根は流石に初見時ほどは爆笑しませんでしたが、やはり笑えるとともによくあんな高い位置で朗々と台詞を吐けるものだと感心。マチソワ公演だと伯爵も喉がお疲れなのか高音が弱くなるらしい、という噂をネットで見かけてましたが、私の耳が節穴なのか、それとも伯爵の歌唱力の賜物か、美しい歌声は健在でした。何と申しますか、声のコントロールが、強いも弱いも溜めるも伸ばすも自在な感じで気持ち良いのです。
 浦井君のアルフレートは軟弱ぶりが実に可愛らしかったです。あの軟弱ぶりを例えるなら、30年ぐらい前の少女マンガによく出てきていたような、優しい言葉遣いで女顔の、ちょっと怖い目に遭うとぴーぴー泣いちゃうような細身の美青年。お笑い度は泉見君より低めだけど、そんな軟弱青年が恋を原動力に健気に頑張っているという役作りに好感が持てました。歌声ものびやかかつ素直な高音でポイント高。カーテンコールではぴょんぴょん跳ねながら客席にスタンディングを煽る姿が微笑ましかったです。
 浦井アルフで笑えたのは、伯爵邸でのお泊まりでの悪夢のシーン。ヴァンパイア達がうようよ出てきてがなり立ててソウルフルに踊っている後ろで、一所懸命両手を動かしてもがいたり、手に持った十字架を高々と掲げてたりと、こっそりオーバーに演技してます。泉見君のうなされ演技はそこまで大きくなかったような気がするので、次回(8月予定)はじっくり観察予定。…と言うより、そうでもしていないと、直視するのが何だか恥ずかしいのですよ、あの激しいダンスシーン(^^;)。

 ちひろちゃんサラについては前も書いたので割愛。ただ一つ、舞踏会のシーンで伯爵が吸血の際にサラの上半身をすうっとなで上げるのですが、手つきが微妙にいやらしくないのがほっとすると言うか、逆に「もっと触らんかい」といらつくと言うか…どっちなんでしょう、自分。
 クコールはこの日もペットのわんこのように伯爵にすりすりして、せっせと働いていました。そう言えばろうそくをもらいに来た帰り、客席に「こんにちは」とご挨拶していたような。口をふがふがさせながらきちんと聞き取れる台詞を発音できるのはすごい、と変なところに感じ入っておりました。幕間のお掃除は、公式ブログによれば平日ソワレしかBGMは付かないそうで、無音だったのが残念です。

 終演後は、母の呆れた視線にもめげずポスターを購入。ちなみに家のどこに飾るかという後先はほとんど考えておりません。サイズ、かなり大きそうなんですが。
 TdVを8月にも観劇予定であると言ったらもっと呆れられました。とても、最低であと4回観る予定だなんて言えません。でも頑張ります。

2006.07.15

炎の街

 そう言えばミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のエンディングの歌って『今夜は青春(Tonight is what it means to be young)』といって、映画『ストリート・オブ・ファイヤー』の中で使われてました。
 ところが掲示板などを見ていると「大映ドラマ『ヤヌスの鏡』の主題歌」であることに言及する人はいても、『ストリート・オブ・ファイヤー』の方に言及する人は意外に少ないようです。ヤヌスの方が強烈に刷り込まれているのか(ちゃんと見てませんがヒロインが原作と違って美少女じゃないなあ、とは思った記憶が…)、それとも『ストリート』の方がB級どマイナー過ぎるのか?
 面白いんだけどね、『ストリート・オブ・ファイヤー』。ストーリーにはヴァンパイアのかけらも出てこないけれど、ちょっとすさんだ感じの街を舞台にしたシンプルな恋愛おとぎ話で、音楽は躍動感あふれるロックンロール。上手い味付けで演出すればミュージカル舞台化もいけると勝手に思っておりますが、誰かやらないかなあ。

2006.07.11

『ダンス・オブ・ヴァンパイア』観劇記(7/8マチネ)

 キャスト:クロロック伯爵=山口祐一郎、アブロンシウス教授=市村正親、アルフレート=泉見洋平、サラ=大塚ちひろ、ヘルベルト=吉野圭吾、クコール=駒田一

 帝劇で『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を観てきました。開幕は7/2でしたが筆者はこれが初観劇。
 ネットでの評判がまっぷたつに分かれていたので不安でしたが、筆者は結構楽しむことができました。不満があるとすれば、「帝劇の怪人」山口さんのケレン味が少し控えめなところでしょうか。もっとマントを翻して悪目立ちするぐらいで良いと思うんですけど。一応主役だし。
 あ、でも、伯爵の巨大なコウモリ羽根の乗り物には笑い死にさせてもらいました。ばかばかしいまでに高いクレーンに載り、加えて、1FG席30番台の席から見ると羽根の素材が黒いゴミ袋を貼り合わせたように安っぽく、しかも18の娘が入浴中のお風呂場の天井から降臨してくる(笑)。決して失笑ではなしに、あの大きなのっぽの伯爵がさらに大きい羽根を着けて飛んできて、大まじめな演技をするというのが可笑しくて仕方ありませんでした。
 伯爵の歌声はいつもながら神がかり的で言うことなし。ミュージカルにおいては歌唱力も演技力の一つであるということの生ける証拠がこの方であると、お歌を聴く度に思います。でも、カーテンコールではもうちょっと踊ってもいいのにな、と、欲張りなことを考えてみたり。教授ですらスイングしてるのに。

 アルフレートの泉見君は初見。扮装写真の髪型を見て「雷様?」と心配してましたが、実際の舞台での頭はそうでもない自然なカーリーで安心。ヘタレだけど純粋で熱いキャラクターの崩し方が上手いと感じました。あれを見てしまうと、Wキャストの王子様系の浦井君がどこまで崩せてるのかと不安になります。
 教授の市村さんはとにかく達者です。ちょっとでも隙を作ると崩れてしまいそうなぎりぎりの早口のナンバーを、見事に歌い上げていらっしゃいました。しかも冒頭でカチカチに凍った時のいかにも苦しそうなポーズを維持するお姿や諸所に見られる軽やかなアクションは、とても御年57には見えません。
 サラの大塚ちひろちゃん。意外に色っぽくて肉感的。サラという役は、最初町からやってきたアルフレートに少しだけ気持ちが動くのですが、入浴中に降りてきたクロロック伯爵に心を奪われてしまいます。その後お城に招かれ、徐々にアルフレートに対しタカビーになっていく態度が何とも可愛いのだけど、同時に「女の嫌らしさ」みたいのも身に付いていて、女性から見るとぞぞっと来ます。歌は…もう少し頑張った方が良いかも。
 そして見せ場を作ってくれたのは吉野さんです。オカマ系ヴァンパイアということで、むやみに美しい扮装写真が出ていましたが、まさか堂々とTバックスタイルで美脚を披露されるとは。サラのお風呂ソングと同じフレーズのスキャットが野太い声で響くだけで既に会場に笑いが起きていました。しかもジャンプ力もあって身のこなしの綺麗なこと。エンディングでもダンスを披露してくれます。
 注目したのは駒田さん演じるせむし男クコール。人里までお城のためにろうそくをもらいに来て、お城の泊まり客にはちゃんと朝食を用意し、ヴァンパイア化したばかりで落ち着きのない奴らをたしなめる健気な使用人。幕間には団扇で卓球のアクションをしつつ紙吹雪をあおいで舞台のお掃除をする姿には、がんばれクコール!と声をかけたくなりました。しかしラストではあんなことに(泣)なってしまう彼。これからお城の贅沢な暮らしは誰が支えるのでしょうか。

 残念だったのは宿屋の主人とその愛人役の方の歌唱力。折角美味しい役どころなのに、このカップルの場面はちょっとだれちゃってます。
 ダンスシーンも賛否両論あるらしいですが、リピートしないとよくわからないので割愛。
 あと、ラストシーンがちょっとわかりづらいです。教授がオチで起きた事件に気づいているのかいないのか、今ひとつどっちか判然としません。仮に気づいた上で「ヴァンパイアの存在を証明できた(^o^)」とか言ってるとすると、この方、かなり始末に負えないマッドサイエンティストです。師匠を間違えたね、アルフ。

 ところでこの日はOカードの貸切公演日。ご挨拶は伯爵と教授。O!M!C!をポーズで決める教授と、牙付けてふがふが喋りで普通の内容の挨拶をする伯爵。そして最後はマントの懐からおもむろに看板を取り出して(いつから隠していたのか謎)ツーショットを決めて去っていくお二人。楽しませていただきました。
 また、当日は抽選会も用意されていたのですが、何と山口さんのサイン色紙が当たりました。Vカードと違って写真が付いているわけでもない、本当にお名前だけのシンプルな色紙でしたが、それでも嬉しいものは嬉しいです。数日分の運をここで使い果たしたような予感がします。

2006.06.18

『ミー&マイガール』感想

 6月10日に友人の誘いを受けて、帝劇でミュージカル『ミー&マイガール』を観てきました。
 当主を喪ったヘアフォード伯爵家。かつて当主の許されない結婚で産まれ、長年消息のわからなかった一人息子がようやく発見されたが、その息子ビル(井上芳雄)は下町ランベスで育ったべらんめえ口調の粗野な青年。後見人である公爵夫人マリア(涼風真世)や男爵ジョン卿(村井国夫)は当主の遺言にある後継者の条件「貴族の身分にふさわしい」人物に彼を育てようとし、一族の娘ジャッキー(純名りさ)は妻の座を狙い誘惑。下町から連れ添う恋人サリー(笹本玲奈)は階級の違いから身を引こうとするもビルは流れに抗い…という展開を記すとメロドラマな感じですが、実際は軽快なダンスナンバーやパロディで満たされた、とても楽しくて可愛いお話でした。

 井上君の歌は『エリザベート』や『MOZART!』のCDで何度となく聴いていたものの、生の舞台は初めて。CDの歌声では高音部が金切り声の絶唱になっていてそこが耳について仕方がなかったのですが、今回のミーマイで聴いた歌声はソフトな感じで全然高音部が気になりませんでした。音域上無理をしなくて済む曲が多かったのかもしれないし、曲調も絶唱するようなものがなかったというのもあるけれど、彼は本当に「歌える」人なのだと今回知ることができました。
 ビルとしての演技は初登場シーンが子犬のようにきゃんきゃん暴れていて可愛かったです(^^)。早くに母親を亡くし、生きるためには何でも(恐らく時には悪事も)やってきたような青年なので、本当は「可愛い」だけじゃないと思うんですが、多分彼は今までの境遇を全て受け入れ真っ直ぐに生きてきただけなんだろうな、と思わせるものがありました。一見無分別な子供、という印象ですが、途中で労働者階級の友人に手紙で決別を告げられた時の反応で、この青年が決して愚かではなく、現実を悟っているのだけど懸命にそれに抗おうとしているのだということがわかります。
 玲奈ちゃん演じる下町っ子サリーも素敵でした。最初にビルとともに騒ぎまくってテーブルの下に隠れ、食べ物やテーブルウェアを抱えて逃げていく場面の可愛さといったら!ある日突然貴族になってしまった恋人から身を引こうとする彼女の行動を、時代にそぐわないと思う人もいるかも知れませんが、彼女の行動原理が全て「ビルの将来のため」で一本筋が通っていてうじうじしていないためか、あまり前時代的な印象はありませんでした。
 どうしても主人公中心に語ってしまいますが、屈託なく育ったわがままお嬢様、ジャッキーもなかなか見どころ満載でした。特にビルにガウン1枚でモーションをかける場面。可愛くて色っぽくて、あれではビルが一瞬とは言えほだされてしまうのも無理がありません。プリンス井上君が下半身パンツ一丁(上半身は着てます)という貴重な姿も見られましたし(笑)。

 あまり細かく書いてオチがネタバレしてしまってもまずいのでストーリーと無関係の話題を二つほど。
 一つ目は、開幕前にロビーの階段で、一幕目ラストの客席参加ナンバー「ランベスウォーク」の振り付け練習というのがありました。アンサンブルの皆さんと指揮者の塩田さんまで参加されて、ダンスの決めポーズをやさしく楽しくレッスンして下さったのですが…。
 いざナンバーが始まったら、周りの誰も立って踊りゃしねえ!そりゃ、前から10列以内で踊るのは勇気いるかも知れませんが。そんな中で自分たちだけ踊る勇気はありませんでした。アンサンブルさんたちも客席に降りてきてるのに。ああ小市民。後で劇場でお会いした同行の友人の友人からも「何故踊らなかったの?」と突っ込まれた次第。エンディングではその分までスタンディングで踊りまくり、ポーズを決めたのは言うまでもありません。

 もう一つは二幕目のジャッキーと婚約者ジェラルド(本間憲一)との球打ち(クリケット?)の場面。後日再見した友人によれば、ジャッキーが打ったボールが下手出口へホールインワンしてジェラルドにほーら拍手、というのが本来の展開だったようですが、筆者が観た時にはボールが一度壁に跳ね返ってジャッキーの元に戻ってきてしまっていました。苦笑いする純名さんに本間さんがすかさず「はいもう一度ー!」という感じでフォローして、無事出口にイン。客席からも拍手。NGなんですがなごむ場面でした。

 歌以外の井上君ですが、ダンスはその善し悪しがよくわかりません。他のサイトで「タップは玲奈ちゃんの方が上手い」とか書いてるところもありましたが(^^;)、ジャンプ力もあって動きもしなやかで、私としては別に違和感は感じませんでした。演技は、初登場とラスト近くのビルで、実は同じ服を着てるのだけど、語り口調とかが全然違うのに感心。ただ、ジョン卿との図書室でのかけあいの場面など、もうちょっと余裕かましてもいいんじゃない?と思う場面もありました。どちらかと言えば器用な役者さんだと思うので、まだまだ伸びて欲しいです。

 …また長くなってしまいました。簡潔にして要を得る文章を書きたいのだけど、なかなか難しいですね。